本人の思いを手記に(『小山のおうち』 島根県)

島根県の『小山のおうち』を訪問しました。

小山のおうちは、エスポアール出雲クリニックに併設された重度認知症老人デイケアです(医療保険給付によるサービスなので介護保険との併用もできるデイケアです)。1日15人余りの認知症の人の利用があります。

このデイケアの特徴は、物忘れがあるということを隠さなくてもよいように関わる、言葉で表現できる人には不安を話せるようにしていることです。時には、それを手記として本人が自分の思いをまとめて書けるように寄り添い、手記を書くことをお手伝いしています。

例えば、手記には、このようなことが書かれています。

「ボケに好かれた私」(原文ママ)

女学校を卒業してから仕事ばかりの虫に成って働いて来て、仕事をやめて、ホッと肩の力を抜いた頃からすこしずつ物忘れをしはじめました。

始めの頃は家族にも気づかれずに済みました。
私自身は出来るだけ自分の「ミス」をホローする様に努力していました。
でも息子に気付かれて、しかられ私もつい大きな声を出して口ゲンカに成ってしまい情けなくつい涙を出して、しまいました。

好きで忘れたりウロウロしているわけじゃないことを知ってほしかったけど息子はだまってしまいました。それからは私と話すことも余りないですけど多分心配はしていると思います。
よそでは人様に気付かれない様に余り話さない様にしています。
それは家族のものが、笑われない為です。

小山のおうちに来て見て、いいなァと強く感じて通う様に成りました。
小山は明るくて、すごく楽しい処です。
心が明るく成り、気がねすることなく笑顔で過せて生きがいを感じています。
小山に来ない時は一人で淋しく時間が長く感じます。

今現在一人暮らしですが、朝、孫とお母さんが来てくれますので心やすらぎ楽しいひとときです。
私自身のボケが少しでも治ったらいいと思っていますがボケに好かれた私ですので当分つき合い乍らマイペースで行きたいと思っています。

平成十六年十月二日

手記に表現することによって、本人も言葉では上手く言えないことを表現できてすっきりするようです。また、本人の気持ちを家族など周りの人が知ることで、本人の真意がわからずギクシャクしていた関係が改善されたりします。

一日のデイケアのプログラムは、送迎で集まった人たちがお茶を飲みながら、自分の名前が呼ばれると元気に返事をすることからはじまります。午前中の話題は、私の持ってきた土産について、参加者からいろいろと意見をもらい、その後土産を食べました。昼食の後、歌を歌った後、私への質問となりました。プログラムの進め方のポイントは、スタッフが勝手に進めてしまうのではなく、必ず参加している本人たちにたずねながら進めていることでした。

このデイケアのもう一つの特徴は、昼食後に帰りたいという人がいないことです。たいてい通所施設では、昼食の後帰りたいと言い出す人がいます。このデイケアでは、昼食後はスタッフがそんなに関わらないのに、それぞれ思い思いのところで昼寝をしたり、おしゃべりしたりとゆったりしています。これは、午前中のプログラムで一人一人が注目され、ここに居場所を見つけているからではないかと思います。

この日、申し送りでデイケア中に居眠りが多くAさんのことが話されていました。Aさんは、話のとおりすぐに居眠りし、体が傾いてしまってまっすぐ座れないほどでした。私は、たまたまAさんの郷里の歌を知っており、それを歌うと寝ていたはずのAさんが目をパッチリあけて何度も一緒に歌ってくれました。歌詞は、時々出てこないのですが、一緒に歌うことでなんとか最後まで歌えました。スタッフがすかさず、Aさんに歌ってくださいと、皆の前で歌うことを促すと、うれしそうに一緒に歌いました。Aさんの眠気はどこにいったのか…その人の興味のあることを提供することの大切さを改めて感じました。

このデイケアでは、地域でも交流塾という認知症についての勉強会を定期的に行っています。今後も、本人の思いが表現できるように手伝って、それを多くの人に紹介してもらいたいと思います。

認知症を知るキャンペーン 本人の思いを知ろう
呆け老人をかかえる家族の会
本部事務局スタッフ
沖田裕子